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「尊厳」とはなにか?

Column No.1

伊藤 公平

慶應義塾長

Column No.2

山口 寿一

読売新聞グループ本社
代表取締役社長

No.1伊藤 公平 (慶應義塾長)

独立自尊こそが究極の他者の尊重

自らの尊厳を高める人こそ、他者の尊厳を尊重できる

人間は自己中心的な存在だ。他者をいたわり、助け、協調することは本能のひとつだが、精神的および物理的に自分が傷つけられることは避けたいという本能が、他者への思いやりを上回ることが多々ある。だからこそ、逆説的であるが、自らの尊厳を高め続ける行為を徹底することが、他者に対するよりよい接し方の習得や尊厳を高める行動の実践につながる。あらゆる他者の置かれた立場を想像して、その人たちの尊厳を高める行動に努めること。社会とともに変化する人々の尊厳を理解して高めていく手法の開発と実践は、学問的にも最も重要な課題と言える。

No.2山口 寿一 (読売新聞グループ本社 代表取締役社長)

「尊厳」のよりどころ

愚かさの中に無垢の状態で守られている人間の智慧の力

いつもはあはあ笑っていて、村人から「少し足りない」と思われていた虔十は、ある時、荒れ地に700本の杉の苗を植える。虔十はチフスで若死にするが、成長した杉林は子供たちの大好きな遊び場となった……。

「尊厳」という言葉を頭に浮かべると、私は宮沢賢治の童話「虔十公園林」を思い出す。「尊厳」には、個人の尊厳と人類全体の尊厳の二重の意味があり、愚かさを否定し、賢さに特権を与える二分法で「尊厳」をとらえることはできない。

デクノボーの虔十は、ばかにされながらも杉林を残し、後世の子供たちに幸福を届けた。愚かさの中に無垢の状態で守られている人間の智慧の力こそが、「尊厳」の根拠である。AI万能論がはびこる現代に、人間の「尊厳」を突き詰める意義は大きい。

※一部画像はイメージです(生成AIを利用して制作しています)