【開催報告】第1回アニメ平和学研究会(2025年8月27日開催)
2025年8月27日に「第1回アニメ平和学研究会」が、慶應義塾大学三田キャンパスにて開催されました。官公庁・民間企業・学生など多様なセクターから多くの方にご参加いただき、分野を超えて議論が交わされました。
オープニング
冒頭、慶應義塾大学大学院法務研究科の山本龍彦教授(X Dignityセンター共同代表)が、X Dignityセンターおよび「アニメ平和学」の研究ユニットの設立経緯について述べました。また、進行を務めた慶應義塾大学イノベーション推進本部の渡邊氏より、アニメが平和に果たしうる多様な価値を可視化・体系化していくことが研究会の目的であるとの発言と共に、登壇者3名の紹介がありました。
アジェンダ設定
Netflix合同会社で公共政策担当のディレクターを務める杉原佳尭氏より、「現場から見るアニメの社会的・国際的可能性」について論じていただきました。杉原氏は、アニメの価値は経済的側面にとどまらず、社会的意義や国際的な共通理解を育む力にあると強調しました。具体的には、アニメを共通言語として世界の人たちが普遍的な価値観を共有することの可能性を挙げ日本アニメが海外展開に成功した要因や、黎明期からの産業構造、アニメ化と配信による原作IPの可能性の拡大について触れられました。さらに、需要サイドからの考察として、視聴者を8つのセグメントに分類できること、視聴動機として現実逃避への欲求があること、海外のアニメ視聴者層について、応援したいキャラの特徴、聖地巡礼などによるコンテンツの好循環等について話されました。
セッション①
次いで、『アニメと戦争』の著者である藤津亮太氏からは、「アニメ映画が描いた「戦争との距離感」」について論じていただきました。藤津氏は、戦後アニメに見られる作り手の姿勢や時代背景を踏まえつつ、冷戦終結後の2つのアニメ映画を取り上げました。まず『機動警察パトレイバー2』(1993年、押井守監督)を題材に、物語の内容やテーマ、犯人の目的などから考察をし、現実における影響まで詳しく論じられました。続いて『ハウルの動く城』(2004年、宮崎駿監督)を題材に、原作から「戦争」の部分を大きく改変した点や、戦争に対する登場人物の描き方などから、「戦争との距離感」について論じられました。
セッション②
続いて、ユネスコ日本政府代表部大使等を歴任された門司健太郎氏より、「文化外交とソフトパワーとしてのアニメ」について論じていただきました。門司氏は、軍事力や経済力といったハードパワーに対し、文化や価値観、外交政策等を源とするソフトパワーの両者を組み合わせたスマートパワーについて体験談も踏まえて述べられ、日本のソフトパワーの特徴を論じられました。また、自ら推進された「ポップカルチャー外交」の具体的内容を紹介するとともに、特に、漫画とアニメに関し、その影響力や課題についても述べられました。
質疑応答
セッションを踏まえた、質疑応答では、アニメにおける戦争描写の変化についてや、倍速視聴の功罪、外交官としてどのようにアニメを伝えていくか、そしてアニメが平和とは逆にプロパガンダになりえないのか、など興味深いテーマについて質疑応答がなされ、活発な議論が展開されました
参加者からのコメント
最後に、慶應義塾大学経済学部の中妻照雄教授(KGRI所長)より、アニメが世界で共通言語になりつつある状況での、アニメ平和学の意義や今後の研究会の発展についての期待が語られました。

第1回アニメ平和学研究会の様子
(撮影 広報室)