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レポート

【開催報告】シンポジウム「データ駆動社会におけるプライバシー保護の重要性 ―どのように⼈間の権利と尊厳を守るのか―」(2025年8月20日開催)

2025年8月20日にシンポジウム「データ駆動社会におけるプライバシー保護の重要性 ――どのように⼈間の権利と尊厳を守るのか――」が慶應義塾大学三田キャンパスで開催されました。本シンポジウムは、Appleのユーザー・プライバシー、子どもの安全、アプリプラットフォームの統合性を統括するシニア・ディレクターを務める専⾨家を囲み、プライバシー、消費者保護、競争法の研究者・専⾨家を交えて、「⼈間の尊厳」からプライバシーの考察を深めること目的として企画されました。

  • オープニング

冒頭、慶應義塾大学大学院法務研究科の山本龍彦教授(X Dignity センター共同代表)から、データに対する個人のコントローラビリティが低下している現代社会において、プライバシーの本質的要素とは何であり、いかにプライバシーを保護するのか、法とテクノロジーの関係はどうあるべきか、といった議題が提起されました。

  • 基調講演 

Apple のユーザープライバシー、子どもの安全、アプリプラットフォームの統合性を統括するシニアディレクターのエリック・ノイエンシュヴァンダー氏より、Appleの長年にわたるコミットメントである「プライバシーは基本的人権」という理念についてご講演いただきました。同氏は、同社が10年以上前から製品・サービス開発において指針としてきた4つの中核的なプライバシー原則(データ最小化、デバイス上の処理、透明性とコントロール、強力なセキュリティ)についてご紹介いただくとともに、ユーザー・プライバシーの保護を強化する同社のプラットフォームに組み込まれた様々な機能についてもご紹介いただきました。また、AIの台頭する昨今において4つの原則は一層重要であると強調され、誰もが安心して利用でき、パワフルでかつプライバシーと人権が尊重される安全な技術の実現を目指すための考え方と製品の設計(”private and secure by design”)について述べられました。

(基調講演の様子)

  • パネルディスカッション 

次に、エリック・ノイエンシュヴァンダー氏、⼭本⿓彦教授、名古屋⼤学⼤学院法学研究科の林秀弥教授、⿓⾕⼤学法学部のカライスコス・アントニオス教授、森・濱⽥松本法律事務所カウンセル弁護⼠の呂佳叡氏が議論を交わしました。

各パネリストからの発表では、山本教授はサイバーとフィジカルが融合する時代におけるプライバシーの本質として、「誰と個人情報を共有するかの主体的決定」と「共有先のセキュリティ構造」の二要素が重要だと指摘しました。カライスコス教授は、消費者保護の観点から同意の機能化の必要性を指摘し、透明性確保やダークパターン対策としての認定制度について説明されました。呂氏は、スマートフォン環境の複雑性を指摘した上で、利用者情報の適正取扱いを促すスマートフォン プライバシー セキュリティ イニシアティブ(SPSI)の意義を示しました。林教授は、競争法におけるプライバシー保護の観点の必要性と、ユーザーの信頼を制度的に支える仕組みの重要性を訴えました。

パネルディスカッションでは、人間を中心に据えた設計の重要性や、デフォルト設計・透明性の提供・AI活用等による同意の実効化について、さらに、プライバシーをコストと捉えず、事業者と消費者間の長期的信頼構築の必要性などについての意見が挙げられました。また、子どものデータ保護の遅れや制裁の脆弱性といった日本のプライバシー保護における特有の課題も指摘され、プライバシーに関する多面的かつ活発な議論が展開されました。

(パネルディスカッションの様子)

  • 質疑応答 

パネルディスカッションを踏まえ、12月に施行予定のスマートフォンソフトウェア競争促進法(SSCPA)や、データと人間の尊厳について、ユーザーがコントロールできることの重要性、プライバシー原則制定のきっかけ、米国における連邦レベルでの包括的な個人データ保護法について、認定制度やSPSI等の取り組みの実効性、リテラシー向上など、多岐にわたるテーマについて、闊達な意見交換が行われました。

  • クロージング

最後に、各パネリストからコメントいただき、プライバシーの将来にわたる影響や価値を意識しつつ、一人ひとりの消費者をはじめとする多様な利害関係者との建設的かつ継続的なコミュニケーションを構築し、あらゆる角度からのアプローチによって取り組むことの重要性が改めて確認されました。また、透明性が確保された技術を通じて、人間の尊厳がより高まることへの期待も示されました。

(撮影 竹松明季)