規範と制度
プラネタリーヘルスと人権
サステナビリティへの社会的関心は高まり続け、SDGsやESGの概念は広く認知されるようになった。しかし現状では、企業の表面的な対応(グリーンウォッシュ)や一部の過激な環境活動家による行動が、環境保護活動全般に対する懸念や反発を招いている。さらに、国際機関や政府、NGO等の危機的な警告も、社会で十分な切迫感をもって受け止められていない。
このような中、アカデミアから「プラネタリーヘルス」という新概念が提唱され、政府や企業も関心を持ち始めている。この概念は地球環境問題が人類の健康に及ぼす影響を研究する分野である。従来の環境保護アプローチが人間の社会経済活動を否定的に捉える傾向があったのに対し、プラネタリーヘルスは人類の健康を中心に据え、環境問題への取り組みを再考する新たな視座を提供している。
環境問題と健康問題は人権保護と密接に関連している。近年は保護・国家主義の台頭や政情不安の広がりにより、人権をめぐる国際情勢は不安定である。国内でも、人手不足を背景に外国人労働者が増加し、多様性を求める声が強まる中で、人権の在り方が問われている。企業もサプライチェーンにおける人権DDや労働者の健康・人権への配慮が重要なコンプライアンス課題となっている。
環境問題と健康との関連性を探求するプラネタリーヘルスに、人権保護の観点から光を当てることの重要性は高まっている。しかし現状では、プラネタリーヘルスに関する研究は、医学・公衆衛生分野が中心であり、社会科学領域からは十分な関心が寄せられていない。
本研究ユニットでは、プラネタリーヘルスと人権の交差領域における理論的枠組みの構築を行う。具体的には、気候変動などによる強制移住や具体的に生じうる健康への影響とその格差といったテーマへの研究を通じて、環境変化がもたらす人権への影響を明らかにする。これにより、環境問題と人権問題の双方に取り組む実務家・研究者・企業担当者などのマルチセクターの連携を促進し、持続可能な社会の実現に向けた学際的・実践的知見の創出を目指す。